錦織圭の未来へつながる言葉

「攻めて勝ちたかったし、そうしないと上にいけない」(2011年全豪オープン) 「攻めて勝ちたかったし、そうしないと上にいけない」(2011年全豪オープン)

秋山英宏=文
text by Hidehiro Akiyama

闘争本能の命ずるまま攻めるのか、堅実に効率的に勝利を追求するのか。選手はその両極を行ったり来たりする。勝ちたいからこそ「手堅く」という選択肢が浮上する。テニスは確率のスポーツとされ、局面局面で確率の高いプレーをする者が最後は勝つとされるからだ。
ただ、選手の個性や特性を考えれば、堅実さは必ずしも勝利に直結するものではない。 2011年、飛躍を期す錦織圭はブラッド・ギルバートを新コーチに迎えた。現役時代に『ウイニング・アグリー』、つまり「格好悪く勝つ」という意味のタイトルの本を書き、引退前にアンドレ・アガシのコーチに就任した異能の人物だ。 ギルバートは錦織に、泥臭く堅実なプレーを、一か八かの攻撃より安定した守備を、と説いた。ミスを減らし、リスクや無駄をそぎ落としたプレーを心がけるべきだというのである。創造的で自由奔放なプレーが錦織の長所だったが、成績の安定を求め、体力の浪費を抑えるには堅実さは欠かせない。そこでギルバートの理念のもと、軌道修正を図った。 だが、この年最初の四大大会、全豪オープン3回戦でフェルナンド・ベルダスコに完敗した錦織は、こんな感想を持った。
「今は守りを重点的にやっているが、攻めないと勝てないので、その判断力をつけたい」 堅実さを求めたのは、勝つため、上位にのし上がるためだった。だが錦織は、数試合をこなしただけで、早くもこう悟るのだ。
「攻めて勝ちたかったし、そうしないと上にいけない」 こうして、2011年は堅実なテニスと本来の持ち味である攻撃的なテニスの接点を探るシーズンとなる。ギルバートとの蜜月は短く、錦織はその接点、つまり次のステップに上がるための戦い方を自分の力で築いていく。 試行錯誤のシーズンと見ることもできるが、〈だんだんと新しい自分のテニスが出来上がっていくようで楽しかった〉とブログに書くなど、次第にそのプロセスを楽しむ余裕も生まれてきた。シーズン終盤には、この年の全豪とウィンブルドン、全米を制した世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチを初めて破る殊勲もあった。最終的に、ランキングは前年末の98位から25位へ一気に浮上した。〈自分ではリスクを負わず、相手にリスクを負わせる。機を見て攻撃的なテニスに切り替える〉 これが錦織の探り当てた、彼なりの堅実なテニス、無駄のないテニスだった。1年間の探求で自分なりの成熟したテニスを見つけ、彼は選手として一つ階段を上る。そして、後年、マイケル・チャン、ダンテ・ボッティーニ両コーチとともに、持ち味を生かした攻撃的なテニス、すなわち高いポジションからの速攻を軸に戦うスタイルを編み出すことになる。