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荒井陸
ARAI ATSUSHI
水球選手
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あらい・あつし|1994年、神奈川県生まれ。海外プロリーグや2度のオリンピック出場を果たした水球元日本代表選手。2023年のアジア大会優勝を最後に、代表を引退。現在は、自身で立ち上げた水球チーム『AIDEN』の代表兼プレイヤーを務める。そのほか、スポーツやアウトドアをルーツとした洋服ブランド『Rough Well』を運営するなど、活動の幅を広げている。
水球の未来のためなら大きな出費も惜しまない。
アスリート・荒井陸さんの、“直感”を信じる買い物
2025年2月、Netflixの恋愛リアリティシリーズ『オフライン ラブ』に出演し、水球選手としての名を多くの視聴者に広めた荒井陸さん。
オリンピックに2度出場した経験のみならず、海外の名門クラブに所属してハンガリーやギリシャで暮らしていた時期もあるアスリートは、どんなお金の使い方をしてきたのだろうか。
「物欲もないしブランドにも疎くて、買い物はほとんどしないです」という一方で、だからこそ欲しいと感じたら思い切りがいい荒井さんに、日々愛用している私物や、日本代表時代の大胆な買い物について聞かせてもらった。
とにかく直感に従って手に入れた、NY生まれのスポーティなダッフルバッグ
荒井さんは、半袖短パンにキャップをかぶり、爽やかな風を吹かせて取材場所に登場した。この日は、水球の練習終わり。肩にかけた大きなダッフルバッグが一際目を引く。これこそ、今回話す“気分が上がる買い物”の一つだということで、早速、このバッグについてお伺いした。

「これは、Aimé Leon Dore(エメ・レオン・ドレ)というNY発のアパレルブランドのものです。日本未上陸のブランドですが、海外の選手が使っているのを見て知って。ちょうど、いいバッグを買おうと考えていた時期でしたし、スポーティさもあるデザインが格好いいなと思い、迷わず買いました」

『オフライン ラブ』でも運命を信じる発言が話題になった荒井さん。こんなふうに直感で即決することが多いのか尋ねると、「むしろそれしかない」と言い切った。
「デザイン性と最初に目にした時の高揚感があれば、値段についてはあまり気にしないですね。値段で迷うくらいなら、それは欲しいとは言えないとさえ思っています(笑)。あと、このバッグは日本で買える場所がないので、誰かと被ることが少ないのも決め手の一つでした。人と同じスタイルでは個性がないので、“みんなと違うものを選ぶ”ことはいつも意識していますね」
流行りに乗らず、自分の感性を信じて選んだ暁には、会話の種もついてくるみたいだ。
「ファッション好きな人からは、“これどこの?”と聞かれたり。気分が上がるだけでなく、コミュニケーションのきっかけになるのもいいところです」
試合の前につける香水と、ヨーロッパに頻繁に行っていた時のお金の使い方

人と違う買い物の一つで、Diptyque(ディプティック)のオールドパルファンも見せてくれた。今では多くの人が知る香水ブランドだが、購入したのは日本上陸前。
「いつ、どこでかは忘れてしまいましたが、ヨーロッパで出会いました。水球はヨーロッパで盛んなスポーツなので各国への遠征も多いですし、向こうの水球クラブに所属して現地に住んでいた時もあったので、なんらかのタイミングで買ったはず。何度もリピートしているのが、夏でも冬でもつけられる『Do Son(ド ソン)』というオールマイティな香り。試合の前などの大切な時に必ず使っています」

ヨーロッパは様々な娯楽がある場所。ほかにも、心惹かれたもの・ことはあったのだろうか?
「後輩とご飯に行ったり、人との時間にお金を使うことが多かったですね。あとは、旅行。今、行きたいと思っている場所でも、40歳で同じように思うかどうかはわからないので、気持ちがあるうちに行っておきたいなと」
旅行先での楽しみ方にも、自分なりのこだわりが。それは、“何もしないこと”。
「日本にいると仕事に追われてしまい、リラックスしている時間がとても短い。なので、旅行に行く時はあえて観光はせず、普通の日常を過ごして身体を休ませるんです。例えば、朝起きて散歩してランチして海でゆったり過ごすだけ、みたいな。お土産も見ない。『オフライン ラブ』の時もニースが舞台でしたが、本当に何も買いませんでしたね(笑)。海外で暮らしていたから、あんまり買う気が起きなかったのかも」
縁を感じたお財布と、水球という競技の未来を思って買ったポルシェ
これまでの買い物について話してくれている荒井さんだが、「僕はそもそも物欲がないんですよ」と一言。
「アスリートは派手に浪費するイメージがあるかもしれませんが、僕にはそういった願望はなくて。日本代表時代は、通販サイトで買った数千円のマネークリップを財布にして、小銭は裸のままポケットにじゃらじゃら入れてました(笑)。お金を入れるものにお金をかける理由が分からなくて」
しかし、代表を引退して仕事で会う人が変わったことや、30代に突入したこともあり、私物にも気を使うように。そこで選んだのが、Maison Margiela(メゾン マルジェラ)のレザー財布。
「ブランドにも疎いので、とりあえず表参道に行って、目の前に現れたMaison Margielaに入ったんです。そうしたら、店員さんが話してくれたブランドの歴史や、洗練されたデザインが素敵で、即決しました。ものはあれこれ見るより、こういう思いがけない縁を大事にしてお迎えしたいですね」

インタビューももう終盤。最後に、値段では迷わない荒井さんの、人生最高価格の買い物も聞いてみた。
「日本代表時代に買ったポルシェです。でも、車への興味はまったくなくて、“水球の未来”を考えて購入しました。水球は競技人口が比較的少ないので、もっと多くの人に興味を持ってもらいたいと常々思っていて。そのためには、子どもや学生にとって憧れの存在になることが欠かせない。だから、選手になって稼げたお金を高級車に変えたんです」
試合に行く時や、ジュニアチームの大会の応援に行く際などに乗っていくと、格好いい!と歓声が。たしかに、クールな車に乗っている姿を見たら、“こんなふうになれるんだ”と鼓舞されるはず。
「代表を引退してからは必要がなくなったので売りましたし、自慢したいわけでもなかったので写真も残っていないですが……。僕も、そういう世界に魅了されて選手を目指した子どもだったので、夢を与えたいんです。親御さん方も、安心してアスリートの道を志す子どもの背中を押せると思いますし」

実は、『オフライン ラブ』の依頼がきた時、3度目のオリンピック出場チャンスがあってもなお番組出演を決めたのも、同じ理由だったそう。
「もっと水球を知ってもらうためにはオリンピックよりもメディアに出る方が吉だと思ったんです。今の思考は、それ一択。自分をきっかけに、水球をしたい人が増えたら嬉しい。人生の決断も買い物も、思い描きたい未来をのせられるツールですね」